ロボット操縦、SF、女の友情――俺たちの“好き”が詰まったVRゲー「ALTDEUS: Beyond Chronos」

VRインタラクティブストーリーアクション「ALTDEUS: Beyond Chronos」をPSVRでプレイして、プラチナトロフィーまで取りました。同じくMyDearestの制作した「東京クロノス」をプレイ済みなので、そちらも含めて語ります。しばらくはネタバレなし、最後少しだけネタバレにも触れる感じです。クラウドファンディングも参加済み。

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舞台は2080年。謎の巨大生物「メテオラ」の襲撃を受けた人類は地下に追いやられたが、対メテオラ用人型都市防衛兵器「マキア」……要するにロボットで地上を取り戻す戦いを続けています。プレイヤーはマキアのパイロットの女性「クロエ」の視点で、メテオラに襲われて死んだはずの親友「コーコ」の姿をしたメテオラと遭遇する……というのが序盤のあらまし。かなり細かく分岐があるマルチエンド形式で“VRインタラクティブストーリーアクション”というジャンルにふさわしい、VRならではのゲーム体験に仕上がっていると思います。

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選択肢を「見る」アドベンチャーパート

本作はいわゆるテキストアドベンチャーのように選択肢で進行するアドベンチャーパートと、マキアのコックピット内でメテオラと戦うマシンアクションパートに分かれています。それで、話が少し飛びますけどVRゲームの価値は、本来は“ない”ものを“ある”と感じられる「没入感」だと思います。自分がこの世界にいて、実際に行動しているかのような気分になれる。それをどれだけ体感できるか、できたと思えるかが自分にとって「面白かったかどうか」の判断基準になります。

そうした意味で「グライアイ」というコンタクトレンズのように装着するARデバイスと、通称「リブラ」と呼ばれる個々の行動ログを分析して最適な決断を補助するシステムは大変素晴らしい。リブラによってゲームの画面内……主人公=プレイヤーの視覚そのものに「その時、どういう行動をすべきか?」という案が表示され、主人公がそこから1つの行動を選ぶ。ゲームなんだから画面に選択肢が表示されるのなんて当たり前ですし、ほとんどのゲームプレイヤーは「画面の中に選択肢が出てくるなんておかしい!現実にそんなことは起きない!」なんて文句はつけないでしょう。もはやルール以前のテキストアドベンチャーでの不文律とでもいいますか。 

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そんな中、近未来という時代設定を生かして「プレイヤーも主人公も同じように選択肢を視認した上で、選んでいる」という状況を作り出しているのがうまい。一般的なゲームにもありますけど、設定や文化をうまくシステムと融合させてプレイヤーに体感させるのは没入感を高める装置としてとても優秀だと思います。

そして、その結果も好感度のようなある種の正解があるようなものではなく、人間関係の一端として表現されるのもいいですね。一通りのルートはクリアしして、明らかにこっちを選んだらこうみたいなのもありましたが結局のところ明確な正解はなく、自分が何をどう選んだのかという過程がすべてなのかなと思います。

 

また、キャラクターやオブジェクトを「見る(操作としてはコントローラーのレーザーポインターを使って視界を向ける)」と情報が可視化されるのもいいと思います。実際にARが普及したらこんな感じになるのかな、という未来を感じるデザインでした。前回の東京クロノスで「視線を誘導される」というシチュエーションにもVRらしさを感じましたが、いにしえのRPGでタンスや壺をチェックする病を患っていたり、探索パートなどで背景をひととおり叩いてテキストメッセージ仕込まれていないか確認しないと気が済まない病を患っているタイプにも満足できる仕様だなと思いました。どういう感想だ。

そして東京クロノスでは多少分岐があれどほぼ一本道でしたが、本作は明確にマルチエンドなのでボリュームが単純に2倍くらいなってますね。個人的にフルコンプまで東京クロノスは約8時間、本作は約15~6時間といったところです。一部ルートを探っている中、明らかにフラグが折れたのが目に見えたのでやり直したりとかは普通にありましたけど、かなりストレートにいけた場合なので普通にやったらもう少しかかると思います。

あまり自由ではなくだいぶ制限はかかっていますが、クリアしていくと「アリアドネ」という一定のフラグからやり直せるシステムもあります。星空のような配置になっているのも面白いですね。画面を動かせばいいんだけどプラネタリウム感覚で見てしまい、若干首がおかしくなりましたが。

ロボットを自分の手で動かす「手応え」

ガンダムだろうがエヴァンゲリオンだろうがレイアースだろうがラーゼフォンだろうがスタードライバーだろうが何でもいいんですけど、この手の作品に触れたら一度は「コックピット」という場所に憧れを抱きませんか?抱きませんか……そっか……。まあ、別に主人公になりたいという欲求じゃなく、ボタンを押したり、高速でタッチパネルに触れたり、何かと何かを接続したり、敵を視認したり、矢継ぎ早にオペレーターから連絡や指示が飛んだり、攻撃動作に移行したり……そういったあらゆる浪漫が詰まった場所だと思います。

で、本作はそのコックピットにいるという体験ができる。これだけでもう、わりと高い満足度が得られます(個人の感想です)。あとこう、地下からせり上がって地上に運ばれてバーンと視界が開けるとか、目の前にある分割されたディスプレイに少しずつ映像が映って視界が広がるとか、攻撃を受けて視界が欠けるとか、ロボットアニメとかで見かけるお約束ってあるじゃないですか。そういうイベント的な演出もひととおり味わえます。

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そしてなんといっても「必殺技」。ちなみに本作のロボットであるマキアはツーマンセルで行動し、前衛の「アレス・マキア」が攻撃を防ぎつつ、中~後衛の「アルト・マキア」が敵の攻撃を反射したり、高出力のレーザー砲で敵を殲滅したりといった役割になります。主人公のクロエが登場しているのは後者なので、プレイヤーもタイミングを合わせて操作パネルをスライドタッチして反撃して、レーザーの出力を見極めてトリガーを引く(PSVRの操作はL2だかを押す)といった行動を取ります。作品全体に言えることなんですけど、このバトルのUIが超近未来で美しい。起動シーケンスで「うおおおお!!」とテンションを上げ、バトルの操作ではちゃめちゃに「自分が今、ロボットで敵と戦っている感」を見せつけてくる。いい仕事してます、本当に。洗練されたデザインは没入感に一役買っていると思います。

 

それと、一般的なコンシューマゲームってバトルシーンにかかる曲は概ね評価が高いですよね。汎用バトル曲であればプレイヤーが何度も聞くことになるものだし、ボスバトル曲ともなればゲームの要所にくるものですから生半可なものを出してきません。で、こうしたバトル中に「実際にこんなBGMするわけがない」なんてケチ付ける人はいないと思いますし、ゲームやっててBGMが鳴ることもまたルール以前の話です。

なんですけど本作ではマキアを操るサポートも担う「アーク」という高度なAIが存在していて、ホログラムで現れるAI……名前で言うなら「ノア」が「戦闘時にテンション上がるから」みたいな理由で歌ってくれます。BGMが鳴っているのではなく、歌ってるからBGMが聞こえるんです。ここで流れるボーカル入りのBGMの熱さ自体もすごくよくて汎用バトルBGMのはずなのに大決戦のクライマックスかよってくらい重厚でいいんですが、わざわざBGMが鳴っている理由付けをしたところに本気を感じますね。実際、アスリートとかよく音楽の話題になりますし未来ではもうちょっと科学的に検証されているのかな?今も科学的根拠あるのかな?知らんけど。

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これの0:38くらいで流れるやつです。

ストーリーは難解だが、感情が訴えかけてくる

スピンオフ小説「ALTDEUS:Beyond Chronos: Decoding the Erudite」も読みましたが、そのうえでも世界背景みたいなところは未だに宇宙猫よろしく「つまり……どういうことだってばよ??」状態です。いや説明はしてくれてるんですよ、してくれてるんですけど語り手が超絶頭いいので、原理や理屈を説明してくれているというのは分かっても正直何をいっているのかよくわかりません。

ただ、主人公であるクロエの感情はよく理解できます。何が起きているのかという科学的な話はよく分かりませんけど、クロエとコーコ(たち)の感情を軸にしているので、2人が何を想い、どう行動して、その結果で相手に何を与えたのか。こういった人間くさい部分は丁寧に描いているので、素直に感動できます。泣くという感じではなく充足感ってタイプかな。マルチエンドの結末にしても、個人的にはどれも好きですね。どれも正解だし、どれも何かが間違っているような。いずれにせよ主人公のクロエでありプレイヤーの選択の結果だと思うので、こうしたらああなるよねというのはとても納得できました。

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登場キャラクターも多すぎず少なすぎずで、 正直なところ男性陣はもっと出番が少ないかと思いましたがセリフ量も見せ場もきちんとあったなと思います。アオバなんか、バトル中はクロエより喋ってる……すげーオペレーターしてたな。

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それに加えて、もう1人のマキアのパイロットであるヤマトのDLCが発表されたのは嬉しかったですね。彼の行動原理やかつてマキアに搭乗していた父親の話なんかはストーリーで語られていましたが、特定のシーンでの心情はもう少し知りたかったですしね。そのシーンに至るまでのきっかけはもちろんプレイヤーの選択なんですけど。まあ、それはそれとして。

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小説についても少し言っておくなら、メテオラの襲撃により地下に追いやられた人間がどのように今の生活を手に入れたかという、本編ではあまり深く触れられていない部分が理解できました。公式に「レジスタンス」なんて存在が明記されているように、未曽有の危機ですら人類は一枚岩になれない。ここ数年で身をもって体感した出来事ではありますが、結局のところ人間の本質は過去も未来もどこまでいっても変わらないんだろうな、なんて思います。

そして、今の世界を形作った立役者である科学者・ジュリィの過去ですね。ゲーム内でもある程度は察せられましたが、そういうことかと。本作が気に入ったのなら読んで損はない内容だと思います。

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好きだなと思ったところ

ここからは雑に言っていきます。まずキャラクター。東京クロノスに引き続き、LAMさんなんですけど、VRゲームでキャラクターと自分の境界があいまいになるラインって「キャラクターに認識されている」と感じた瞬間だと思うんです。で、それが起きるのってキャラクターがこっちを「見た」という時で、つまり重要なのって「目」だと思うわけで。そうした部分で、魅力的な絵を描く方が星の数ほどいる中で、目の描き方がすごく特徴的なLAMさんを起用されるのはすごくVRゲームらしいなと改めて思いました。

次。地下に追いやられた人類が住む「A.T(Augmented Tokyo)」。ぶっちゃけ渋谷。親の顔より眺めた東京クロノスの舞台再びか。それはともかく、資源を有効活用するために実際はほぼ何もない真っ白な空間で、ARで貼り付けたテクスチャで煌びやかな都市を気取っているだけ……というのが面白い。まあ、あんな何もない空間にいたら人間もれなく気が狂うと思います。で、そのテクスチャの表示段階は個々に設定できて、主人公であるクロエは解像度を下げているので通りすがりの人間も女神転生とかの登場人物(青とか緑みたいな棒人間っぽいアレ)のように見える。本音の部分はそこまで作りこめないというコストによる部分が大きいのだろうけど、それを設定でうまくバランス取っているのがうまい。こういうの、あんまりゲームに対する感想ではないんだけど。

ただゲームってルールありき、制約ありきで、少なくとも本作はアマチュア(インディー)の芸術品ではなく商売のための製品だから限られたコストと期間で最大を目指さなくちゃいけなくて。小説とかだったらシーンとかも選び放題だけど、テキストアドベンチャーにしてもストーリーに加えて「作れる背景」には限りがあって、そことの整合性もある種の枷になる。まあ、それでもテキストアドベンチャーは全然違うシーンの背景を無理やりもってくることもあるけど、それかなりダサいんですよね。こっちも背景から得られる情報がバグって感情が変になるし。それで、VRだとそういう誤魔化しも効かないからシナリオと場所の整合性ってかなり厳密になると思うんです。なので、こっちの思い込みですけど、ごく自然な形でコストにメリハリつけてるなーって感じるとこ結構好きなんですよ。妥協してない証拠じゃないですか。

 

実は買うと決めた時点であんまり細かい情報入れなかったんですけど、公式サイト見たらキャラクター紹介のところに本編の核心かなって思ったところが普通に書いてあって笑ってます。「それ普通の開示情報だったんだ?!」みたいな。

最後にノアのライブパート。たぶん生身は生身でまたやれることがあるんだろうからまた別の話だけど、VRを活用したライブが一般的になったとして、VRで見る2次元キャラクターのライブの完成形じゃないですかねこれ。こういうのがリアルタイムで見られるようになったら、VRライブがひとつの山場を迎えた証になると思います。今のところはまだキャラクターのVRライブって観客ありの、リアルとバーチャルのハイブリッド型で進んでますけど、もっとVRが進化したらこうなるのかな、こういうのが見てみたいなと思うものでした。

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あとまあ、ゲームだと歌姫って記号は色々な意味で使いやすいので頻繁に出てきますけど、歌で世界が救われる系はもうお腹いっぱいだし雑な導入にも辟易してたので、娯楽の少ない世界での潤いとしてのエンタメであり芸術という側面はよかったです。

もうちょっとどうにかならんかったのかな

バックログくれ。今だってAIによるリアルタイム翻訳や記録が可能なんだから、何故ログが辿れないのか不思議でしょうがない。

スフィアで何故時間が見れないのか。東京クロノスはメニューで時間が確認できたから、いちいちPSボタンで現実に帰って時刻みてから戻るなんて手間いらんかったし没入感削がれんかったのに何故時計機能を削ってしまったのか。どうして。

これはまだしばらくしょうがないんだろうけど、やっぱキャラクターを動かしてシーンを進めると頻繁にロード入るのがな……しょうがないんだけどな……それでやっぱりスキップがスキップじゃなくなるのがな……。これPS5でやったらロード時間もっと短くなったんだろうか?この辺はそのうち解消されると思ってるので気長に待つけど。

テキストアドベンチャーみたいにどこでもセーブできない分のアリアドネなんだろうけど、もう少しフラグが細かいとよかったかもな。あとクリアしないとろくに戻れないけどクリアしたらもう戻らないので遅い……いやダメなのは分かるんだけどね。

まあなんつーか、昔のゲームは単純に技術不足やそういったアイデア自体が存在しないかで今思うと不便なことが多くて、色々と試されたけどその不便という名のルールだったり制約が没入感でもあって。今はスマホとか周回必須ゲーならとにかく設定なんか全部捨てて利便性だけ追及してほしいけど、それって思い入れみたいなものとすごく相性が悪い気がする。利便性と没入感ってどっちに偏ってもバランス悪くて難しいと思うけど、VRは「ありとあらゆる事象を無視して世界に没頭できる」というのがとても高い価値だと思うから、没入感を高めつついずれもう少し利便性(周回プレイするタイプのゲームならなおのこと)を追求してほしいなと思いました。

 

ソニー信者だからPSVR以外にVR機器を買うかと言われたらそれはないのだけど、現状は最速でVRゲーやるならもうOculusじゃないとダメだな。クラファンまでして先行から5カ月待つとは思わなかった。もちろんパケで売るという付加価値は何物にも代えられないし、そこはPSプラットフォームの強みだと思うし、少なくともこれはクラファン時点で先行については明言されてたから待ったこと自体は別にいいんだけど、でも5カ月後でやっとプレイしたら公式でハーフアニバーサリーとか言ってる浦島太郎感。ハードやプラットフォームの問題はままあるし、半年~1年くらい独占で後発マルチとかそういうのすげー面倒くさいんだけど、まあ勝負といえば勝負だからしょうがないんかな。デスカムトゥルーなんかもあまりにもハード格差が後発グダグダだったし、ただのプレイヤーとしてはたまったもんじゃないけど。要は一番愛用してるハードで出てほしいっていうただのワガママなのは分かってるけどさ。

ちょっとネタバレ(小説含む)

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言うたぞ。

 

言うたからな。

 

小説のあとがきで少し触れられてたけど、男女だったらどうしても恋愛的だったり心の成長物語になってしまいがちというのはその通りで、だから今回は恋愛的な要素はなくて原初的な友情とか家族みたいな部分にフォーカスしたのかなーというのは色々腑に落ちた。テキストアドベンチャーって現行、どうしても恋愛に寄りやすい(ギャルゲー乙女百合BL然り)けど、それが悪いわけじゃないし好きだけど、そうじゃない物語も摂取したい時があるので、ただただ面白い物語を味わったなーという後味がよい。

 

マルチエンドについては、最初に辿り着いた飛び去るやつで「もうこれ以上ないくらいの完結では???」となってしまったんですけど、ノアのもアニマのもよかったし、コーコで2通りあるのもよかった。1つはクロエがクロエとしての、もう1つはクロエが人間としての選択だったのかなと思います。個人的にはノアのが外から見れば救いようがない一方で、当人たちの選んだ結果としては結構好きだったりする。人間でないものが人間の形をしてふるまう中で、魂や心が生まれる過程を嫌いなオタクなんていないだろ(クソデカ主語)。

 

小説については、この救いようがない面もあるA.Tにあってデイターの成り上がりっぷりは凄まじいもので、アオバが彼をとても尊敬した理由がストンと入ってきたのでよかったです。ジュリィの件はまあ東京クロノスのプレイヤーとしては色々思うところがあるけれど、彼女の思考そのものは頭良すぎてよくわからんが根底にある部分はまあ分かる。ある意味、主人公だったんだよな。ゲームだから我々が勝ってしまうけど、ジュリィが願いを叶えた後の世界もちょっと見てみたいと思った。

 

あと公式のファンキット使ってて思ったんですけど、PSVRだとねじ曲がったスクリーンショットしか撮れないので感想文に使ってもいいゲーム画面のカットください(強欲)。

 

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