ゲームオタクの新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」見てきたよメモ

原作ゲームその他もろもろふんわりオタクが新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」を見てきました。

前提

・原作ゲームはいちおうサービスインからのオタク(サボりながら80~90振りくらいは所持中)

・舞台(=映画)、ミュージカルはそれぞれ何作かざっくり履修済み

・歌舞伎はナウシカFF10、新・陰陽師あたりを履修済み

全体雑感

我々みたいなゲームとか2次元的なオタクが、古典歌舞伎に触れるための入門作品としてとても良かったんじゃないでしょうか。ナウシカFF10もすごく面白かったんですけど古典とはだいぶ演出もノリも違いますし、その辺から「じゃあ古典歌舞伎を見てみようか」とはなりにくいだろうし、いきなり見ても全然違っててハマるかっつーとなかなか難しい気がします。新・陰陽師もだいぶ分かりやすくなってたと思うけど、それでもちょっと難解なとこあったしな……。

その点、刀剣乱舞の歴史的なモチーフと古典歌舞伎ってものすごく親和性がありますよね。長く語り継がれている物語、それこそ源氏や平家まわり、曽我兄弟なんかは歌舞伎にも刀剣乱舞の舞台・ミュージカルにもありますし。筋書にも書いてありましたけど、刀剣男士のモチーフになっている刀が登場する歌舞伎なんかも多数あるようですしね。その辺から色々と取っ掛かりを得やすいだろうなーって気がします。

あとはゲームにしても今回の「月刀剣縁桐」にしても、舞台にしてもミュージカルにしても根幹にあるのって「歴史if」だと思うんですよ。刀剣乱舞のように外部要因による歴史改変みたいなファンタジーはさておき「後世にはこう伝わっているが、実はこんなこともあったんじゃないか」みたいな浪漫は大河ドラマなんかでもよくありますし、普遍的に受け入れられやすい要素で。梅玉さんも「ゲームはよく分からないけど久秀の設定なら理解できる」みたいなこと仰ってくれてましたし、双方のファンがなんとなく理解できる絶妙なコラボレーションだと思います。

 

いちおう原作ファン目線でいうと、今回は三日月宗近という刀剣男士の立ち位置がすごく面白かったなと思います。三日月といえば刀剣乱舞という作品のアイコンであり、原作をはじめ各種派生でも中心的な存在になっています。それゆえ「歴史改変に立ち向かう刀剣男士」とか「正しい歴史を守るため、かつての主を見殺しにすることに思い悩む」みたいな一般的……っていうか多くの刀剣男士が立っているところにはいなくて、もっと(メタ的な部分も含め)外側から物語を見ているようなイメージが強いんですよね。古い刀だから後世に伝わっている歴史とはちょっと違う、本当に起こった(けど伝わっていない)歴史を知っていて、あえて口に出さず黙っているみたいなシチュエーションとか、何度も繰り返しているから知っているみたいなケースとか色々で。それが本作では、かつての主だったとされる足利義輝との出会いに思い悩みながら戦っていたので、一周回って新鮮みたいな感じでした。「三日月宗近が普通に刀剣男士してる……?!」みたいな。

それと、冒頭に出てきた審神者(CV:中村獅童)ですね。審神者=プレイヤーなのでこれといった設定もなく、お好きにご想像くださいなので各メディアミックスで色んな扱われ方してますが、それでも基本的に「刀剣男士に寄り添う」みたいな部分は共通概念として成立してたかなーって気がするんですよ。そんな中でこの歌舞伎本丸の審神者、刀剣男士へのアタリがめちゃくちゃ強くて笑いました。「うるせー!!つべこべ言わずに時間遡行軍を倒しやがれ!!」みたいな(そこまでは言ってない)。時期的なもんもあって今この審神者の外見が王様戦隊キングオージャーのシュゴッダム初代国王・ライニオール(演:中村獅童)みたいに思えてくるバグが発生してしまった。中村獅童さんの声で言われたら、まあ、しょうがないか……みたいな気持ちにもなるし。

 

ビジュアルも100点中10000点をお出しされたなって気持ちです。やっぱ舞台にしてもミュージカルにしてもキラキラした顔面の成人男性が無数に出てくるので、そのイケメン的イメージを歌舞伎にどう落とし込むのかは非常に気になりました。自分はなんとなく新作歌舞伎の方向性は理解していたつもりだったので、どういうものが出てきても可能な限り見に行くつもりでしたけど、あんまりファンにコレジャナイ反応されるのも興行として困るしな~と思っていたところ、大正解をお出しされてよかったです。どうしても、いわゆる2.5系のスケジュール感で生きているのビジュアル出すの遅い遅い言ってしまいましたけど、かーなーり頑張って出してくれたんじゃないでしょうか(FF10もそうだったと思う)。FF10も刀剣も「できる限りオリジナルのイメージを損なわずにどう表現するか」みたいなところは共通してると思うんですけど、FF10は置き換えというか「このイメージを残すにはどうするか」みたいな感じがしたんですけど、刀剣は「キャラクター性を担保できる限界まで要素を削ぎ落す」みたいなところへの挑戦というか、そんな印象ですね。洋装の要素も含めて細かい装飾はとことん省いて、小烏丸以外はお化粧とかもすごくシンプルで、髪型も基本的に前髪上げてるしであんまり原作っぽくない。それでもちゃんと「これはあの刀剣男士だ!」って分かる。どちらかというと歌舞伎の衣装ベースに、どの要素を残せば刀剣男士になるのかみたいな足し引きの気がします。

その中で、少しタイプが違っていたのが小烏丸かなーと。いちおう「日本刀の父」ですし男性として描かれていますけど、もとのデザインが極端に男性的でも女性的でもなく(どっちかっていうと少年寄り?適当なこと言ってるので詳細分かってませんが)。原作ボイスもはんなりとした感じですし、舞台版のほうもそういう「品の良さ」みたいな部分を結構強めに残している印象なんですよね。そこで歌舞伎では、もともと女性キャラクターではないけど女方の所作に全振りしてきたのは「大変思い切りがいい!!」と拍手したい。そういう表現できそうな刀剣男士ほかにもいるしなー。小烏丸は比較的、髪型とか衣装とかも再現性が高いほうだったと思うんですけど、それ以上にキャラクターそのもののくみ取り方がすごく丁寧だなーって思いました。

 

これは若干の寂しさなんですけど自分は当初、原作で三条(ゲーム内でいう三条宗近の刀の総称)、とくに三日月宗近と小狐丸が好みでプレイしていたんですよね。で、いわゆる2.5次元での三日月は、とくに舞台版(=映画)は相方がほぼ山姥切国広に固定されてるんですよどうして。ミュージカルのほうは小狐丸がちょっと出てきてるけど、まあ絡みはなくもない、みたいな感じだった気がする。なので今回の歌舞伎版ではもう少し、三日月と小狐丸の相棒感みたいなものがあるといいなくらいの期待があったんですが……ふたを開けたら右近さんの小狐丸と義輝の出番が2:8くらいだったという……。仲間内の1人みたいなのじゃなくて、まともに2人で会話したの中盤くらいの「なんですぐ消えるんのじゃ??」っていうメタぶっこみ会話くらいじゃなかった??え~~~~~ん小狐丸と三日月宗近でもっと会話してほしかったよ~~~~~舞も踊ってほしかったよ~~~~~!!莟玉さんは紅梅姫が後半出番なかったから兄弟でちゃんと会話してて羨ましかったよ……。

ただ、松也さん右近さんも自分が把握しているまだまだ数少ない歌舞伎役者のうちの2人なんですよ。松也さんはドラマも見たしFF10歌舞伎でしっかりラスボス演じてくれてとても最高だったし、右近さんもナウシカや新・陰陽師でのボス感もよかったし映画「わたしの幸せな結婚」も今後明らかになるであろう強キャラ感あってよかったし、そのうえ右近さんはわざわざイヤホンガイドで「突然の尾上右近でお馴染み……」みたいなアピールされるほど(これ本当にめちゃくちゃワロタ)今は歌舞伎に留まらないご活躍されてるじゃないですが。そんな中、松也さんが自分の演出する新作歌舞伎で右近さんを物語の中で最大に目立つ義輝として使わないって選択肢はないだろってのは、にわかなりにもめっちゃ理解できるのよ。だから義輝の出番をもっと減らしてほしいなんてのは思わないし思えないので、この「小狐丸を見たい!」「義輝で活躍してほしい!」を解決するには、大真面目に右近さんに分裂してもらうしかか手段がないわけで……なんで右近さん2人おらんの??2人になって!!111

そのへんも含めて、筋書きに莟玉さんが「歌舞伎はキャラクターだけでなく、その先に役者が見えてくる」といったような「ニン(仁)」を大切にしているというお話がありましたが、いわゆる当て書きですよね。そういう役者重視の観点を思うと、色々としっくりくる気もする。莟玉さんが男女の2役だったのも、髭切のふわふわした面だけでなく我々みたいなのに莟玉さんの女方としての可愛らしさをアピールしたかなったのかなと思うし、小烏丸が雪之丞さんだったのもあの柔らかい雰囲気を全面に出したかったのかなーと思うし。吉太朗さんはFF10でリュックだったから可愛い女の子のイメージだったけど膝丸の立ち回りがカッコよくてそっちのイメージがいい意味でぶっ壊れたし、あと吉太朗さんがお若いからかこういうゲームとのコラボレーションへの理解度も高いしインタネーッツへの感度も高いし、こういう方が座組にいると色々と話が早かったんじゃなかろうかという気もするし。

それで、トドメは梅玉さんの存在だったような気もするなー。歌舞伎全然詳しくないけど「人・間・国・宝」なんて言われたらいくら我々でも普通にびびるし。人間国宝をこんなカジュアルに拝んでいいんですか?!?!莟玉さんがご出演するとか色々縁があったのか分かりませんけど、我々みたいなのに人間国宝とは何ぞやっていうのを叩きつけてきた感。松永久秀足利義輝いえば長らく「戦国BASARA(ゲーム)」のイメージが染みついてて大変なことになっていたのだけど、だいぶイメージ書き換え出来てそれもよかった(トンチキを混ぜるな)。

 

あとは思い付きで個々人にあれこれ。

 

尾上松也さん。ドラマだと変顔(失礼)のイメージ強いし、FF10シーモアだったしで全然そういう感じしなかったんだけど、今回の三日月宗近はお化粧とかの加減もあるのか「線、ほそっ!!」ってびっくりしました。あと三日月の髪型ね。頭のぴよっとした双葉の再現もだけど、長髪にした人にいいハムとか贈りたい。最初のメインビジュアルとかだと分かりにくかったんだけど、実際に動くと長髪だと動いた時にすごく美しい~~~~~!!

 

尾上右近さん。右近さん個人をあんま語ったことなかったからついでに言うけど、お顔立ちが「THE・歌舞伎」だよね。ちょうど東京国立博物館の国宝展で、教科書とかによく出てる浮世絵を見たんですけど、マジでああいう顔してる。いやほんと歌舞伎役者のとか美人画とかってデフォルメしてると思ってたんですが、右近さんのお顔を見て「いやめっちゃ写実的だわ、見たまんまを描いてるわこれ」って思った。自分の思う「歌舞伎役者の概念が全部つまったお顔」なんですよ。なので最初は「わたしの幸せな結婚」の映画で見ても気づけんかった。白粉で顔の凹凸とかラインとか分かりにくくなるけどさ……分らんねんよ。テレビあんま見ないほうだからそっちのご活躍はあんま知らなかったんだけど、テレビ見る人に聞いたら普通に知ってたし「突然の尾上右近」のインパクトも大概だし、このままいい感じに盛り上がってほしいですね。

あと何より、三日月と義輝の対峙シーンがとてもよかった。さんざん小狐丸のこと言ってるけど、最後にこれ見せられたらやっぱ右近さんの義輝じゃないとダメだわ……ってなるもんな。松也さんと右近さんで「陳情令」やってほしい(どさくさ)。

 

中村鷹之資さん。あんま触れられてなかったけど同田貫正国の無骨な感じと、舞のお上手っぷりで脳がバグった。押彦&武彦は上演前に何か色々とやってたみたいだけど、座席的によく聞こえなかった。たぶん、こんのすけ(刀剣乱舞のマスコットのおそらく狐)の擬人化なんだろうけど、それが2人ってのがなんか人外が分割されて人を維持しているような感じがあっていいなと思う。

 

あとそうだ新橋演舞場!「滝沢歌舞伎」のライビュで見て1回現地行ってみて~~~~!!となったので行けてよかった。ジャニ沼にいると今後もお世話になる可能性が高そうなので拝んでおきます。あまりいい席を取らなかったけど、メインステージ?の見やすさとしてはそんなに問題ありませんでした。まあ当然、花道は見えなかったけど小さいモニターも用意してくれたし。ただしょうがないけど、ずっと斜め向いてて観劇後は完全に寝違えた人になってたので、今度はちゃんと正面で見たいなって思いました。ストーリーはそんなに分かりにくくなかったと思うけど、それでもイヤホンガイドがあってよかったなーと思います。

 

また何か思い出したら書きます。