脳力を駆使して怪異と戦うブレインパンク・アクションRPG「SCARLET NEXUS(スカーレット ネクサス)」――バトル面では文句なしの新規IPに今後も期待

バンダイナムコエンターテインメントが2021年6月24日に発売したブレインパンク・アクションRPG「SCARLET NEXUS(スカーレット ネクサス)」の感想文です。2ルートクリア済み。ストーリーのネタバレは控えめですが、システムに絡むところは普通に言ってるので注意してください。いちおう9月末にクリアしつつ、12月までやってたアニメも完走してます。

本作の舞台は、ほぼすべての人間が持つ超感覚「脳力」による科学技術やネットワークが発展した「ニューヒムカ」。ここには、人間の脳を食らう「怪異」と呼ばれる正体不明の存在が跋扈しています。この怪異を倒すべく組織されたのが、強い脳力の持ち主で構成された「怪異討伐軍(通称:怪伐軍)」となります。プレイヤーは、この怪伐軍の新人隊員「ユイト」または「カサネ」の視点でストーリーを追うことになります。

ちなみに、脳力が強い人間は「スカウト組」として強制徴兵され、拒否権はありません。これがカサネで、いわゆるエリートです。一方、スカウトはされなかったけど自ら望んで合格した「志願組」もいます。これがユイト側で、努力でどうにかしてきたというイメージですね。

物語の大筋は同じで、挑むマップも同一です。ただ、後々情報交換など行いますが、それぞれの視点のみで語られる部分があるのと、仲間キャラクターとの個別イベント「絆エピソード」はどちらの視点かで内容が違うので2周が前提ですね。自分はユイトが先で1周目は25時間程度、2周目はカサネでレベルを引き継いだのもあって計42時間、レベル62前後くらいでした。後述しますが、クエストは虚無なので一切手を付けていません。

ゲーム自体はバンナム謹製なのでグラフィックやサウンドについては文句なしですが、状況が状況なので予定していたようなプロモーションとか出来なかったのかもしれませんけど首をかしげるような展開とかありつつ、一部操作面でキレちらかしたり(おおよそアプデで改善されたので今は問題なし)、ドミナス・サーカスみたいな絶対許さねえぞ案件があったり、ストーリー全体は分かるし好きだけど細かい部分が気になったり、まあ色々と言いたいことは山ほどあるのでこんな感想文書いてるわけですが。

ただ面白くなかったかと言われたらそんなことはなく、どうやら世界100万本の大台には乗ったらしいので今後もIPとして続いていくなら買うくらいには気に入っています。最初からデラックスエディションをフルプラで買ったんだから褒められるべき模範ユーザーですよおれは。ただサントラがMP3ダウンロードできないのはキレてる。

操作面ではそこまで人を選ばないし、ストーリーは「これ絶対もっと設定があって描きたい部分があったけど色んな事情で削ったのでは?」と思いつつもまあ面白いし、キャラクターも可愛いので全体的に万人向けな分「一体これをどこに刺したかったんだ?」というのが見えてこなくて、誰にオススメしていいのか迷います。まあ、シナリオ原案が実弥島巧氏、ディレクターがテイルズオブ関係ということもあり、一言で雑に言うなら「一部だけじゃなくて全部別ルートのTOX」って感じですね。もっと言うとテイルズオブスカーレットネクサスです。アライズで吸えないショタ幼女(見た目通りの年齢とは限らない)が恋しくなったらこっち!

●和モチーフのサイバーパンク

厳密に定義したら違うのかもしれないけど、本作はいわゆるサイバーパンク的なSFジャンルっぽい感じです。標識や広告、信号など街中で見かけるあらゆるものがARで表示されていて、現代であればディスプレイやスマートグラス、スマートフォンなんかを通して見るようなものが脳力によって直接視覚に投影されている……ような感じだと思います。脳力(脳)を介して、肉体を直接ネットワークに接続しているような。知らんけど。


個人的にはバトル中に入るチャットでちらっと語ってた「脳力によって完全な自動運転が実現しているので、ガードレールがAR(映像として残っているだけでほぼ意味はない)」というのが面白いなと思いました。

主人公たちの最初の拠点になる街「スオウ」は、巨大なビル群こそ現代的ですが、そこにちょっとうるさいくらいの電子公告が飛び交っていて、香港のネオンサインのような印象です。この空気感はかなり好きですね。でもそれもARで飾っているだけなので、システムがダウンすると何もないただのビル群になってしまうギャップもいい。デジタルサイネージとか、そういうものがあと30倍くらい進化したらこういう未来になると思います。ほかにももう1つ拠点はあります。

これに加え、キャラクターネームや怪伐軍の制服デザインなどに表れているように、全体的に和モチーフが多く取り入れられてます。地名なんかも日本(神話)ぽいものが多いです。そういう和洋折衷じゃないですけど、和要素とサイバーパンクをうまくまとめてるなーと思います。

その点、怪異は既存の何かをイメージしたような感じはとくになく、人間の一部と動物、無機物をめちゃくちゃに組み合わせた不気味なデザインになっていてすごくいい。何かこう、意志を持つとかそういうのはなく、ただ本能的に脳を食らっているだけの存在って感じで。人間と何かが合体した悪魔っぽいとかそういうのじゃなく、明らかに手足の数とか関節の数とかもおかしいし。ザ・バケモノって感じ。

●仲間の超脳力を切り替えて戦うバトル

本作のバトルの特長は、何といっても「超脳力」ですね。キャラクターは1人1つ、何らかの超能力を有しています。主人公のユイトとカサネの能力は物を動かす「念力」で、仲間たちは瞬間移動、透視、超高速、発火、放電、透明化、硬質化、複製といった脳力が備わっています。なお武器での攻撃もできて、ユイトは刀、カサネはあれなんだ浮遊する短刀?みたいな感じでちょっとタイプが違います。

そしてバトルのキモは、味方の脳力を一時的に借り受ける「ストラグル・アームズ・システム(Struggle Arms System)」、通称SAS(サス)です。怪異は普通に殴ってどうにかなるヤツもいるけど、特定の手順を踏まないとダメージが通らず倒せないギミックが存在します。ここでうまく仲間の脳力を活用して効率よくダメージをとおすと良い感じになれます(ふんわり)。ルートが違うと仲間も違うので使える脳力も変わるので、ユイト側ならこう、カサネ側ならこうと違うアクションで弱点を突くのも楽しいです。

注意点といえば、3人編成でバトル中でもこまめに脳力とか含めて入れ替えできるものの基本的に主人公が倒れたらそこで試合終了です。いちおう仲間と一緒に戦ったりで上がる「絆レベル」によっては蘇生してくれるケースもあるんだけど、あんまり期待できない。ゴッドイーターみたいな猶予もフォローもないので、そこは少し厳しいかなー。

あと「ブレインマップ」っていうスキルツリー要素はどうなんだろう、正直そこまでやり込むタイプではないのであんまり可も不可もなくって感じなんですが、これといって役に立つ内容が並んでいたわけでもなく、なんとも言えない感じ。脳力ゲージのアップはもう1段階くらいほしかったですね、脳力がキモなのにわりとすぐゲージが枯渇してたのでもう少し脳力をガンガン使えるくらいのバランスが好みでした。

全体的にスピーディーに戦えたのでよかったんですが、ターゲットのロックオンが微妙にズレてて武器(主にユイト)だと思ったとおりに殴れないのがめちゃくちゃストレスでした。ただこのターゲットやカメラ速度の補正、文字サイズの拡大やSASカットインのオンオフ(ブレインクラッシュの演出簡略も爆速対応してた気がするけど)なんかはVer:1.03アップデートで改善されたので、操作面に関してはほぼほぼ文句ないです。次はこれを基準に作ってもらえればそれで十分です。

ちなみに途中で本体をPS4からPS5に切り替えたんですが、操作感がだいぶ変わってそれも面白かったです。コントローラーの差はでかいので、次あるならPS5が現役のうちに遊びたいなー。

怪異とのバトルは概ね楽しかったんだけど、何度も言うけどドミナス・サーカスみたいなダメージがめちゃくちゃ通りにくい状態が長くて対処に無駄に時間がかかるタイプは本当にやめろ。確かにきっちり脳力を組み立てていけば瞬コロできるようだけど、そもそもストーリー上、さっさと先に進みたいタイミングでボスでもなんでもないただの障害に時間を取らせないでくれ。初見はマジでただただキレたし二度とこんなバトルしねえと思った(のに2周必須でもう1回戦わなきゃいけなかったのマジ拷問)(さすがに2度目は対応分かってマシだったけど本当にイライラしかない)。

●概ね理解はできるし難解ではないものの、もっと説明がほしいストーリー

本作のストーリー面では、いわゆるムービーと、テキストアドベンチャー的な止め絵+キャラの顔のみという、テイルズオブのスキットのような感じでカットシーンが構成されていたのが印象的でした。いわゆる紙芝居と揶揄するのは簡単ですけど、ムービーではやりにくいであろう「しっかりとした一枚絵」が出せるのは強みかなと思いました。ただしばらく気付けなかったので困ったけど、デフォルト設定がテキスト送りがオートで、一般的なRPGみたいに吹き出しごとにセリフを止められず、バックログもないので設定変更に気付くまでは非常に困りました。なんでオートをデフォにしたんだろう。

それと、個々に「絆エピソード」というものがあり、ユイトまたはカサネと絆を育む個別エピソードが用意されています。メインストーリーでは触れられない個人的な要素の深掘りで、ユイトとカサネそれぞれで全員が2パターンあるのでこれも2周しておきたい理由ですね。当然、同性の友人かとか、ユイトまたはカサネと別行動中なのか、背中を預ける仲間として接しているのかでも反応はだいぶ違いますし。メインストーリーがほぼシリアスなので、いくつか「ここでそんな話している場合か?!?!」みたいなのもありますが、まあいいでしょう。

ある程度まで絆レベルを上げておくとエンディングでこれまで話してきた内容にまつわるちょっとした会話が挟まるんだけど、何故かユイト側のシデンだけミスって見れなかったのウケるな……。

あと一応アイテムが貰えるクエストがあるんですが、世界背景を深掘りするようなものではなく、軽い依頼テキストがあって指定の方法で怪異を倒すと報酬に微々たるアイテムが貰えるだけだったので一切やってません。面倒なだけでやりがいがないし、もうちょっと何とかならなかったのかこれ。

それで、設定も練り込んであるし全体的なストーリーラインはよかったと思います。怪異とは一体何なのか、この世界はどう生まれたのかといった設定中の疑問や、犠牲と救いなどドラマチックな部分も色々と盛り込んであり「クリアしてよかったな」と素直に思えたので。

ただ概ねゲーム内で答えは出てたんですが、いくつか根幹の疑問についてはさっぱり触れられず「アイエエエナンデ?!?!」状態だったのがすごく惜しいですね。明らかに「今!!!ここで!!!今!!!!説明すべきところでしょ!!!」ってタイミングでスルーされていくし、キャラも疑問に思ってくれないし説明もしてくれないので若干ストレスでした。おそらくですが、膨大で緻密に練り込まれたシナリオをゲーム内にすべて落とし込めなかったのかな……みたいな気持ち。


あとは、ゲームの発売に合わせてテレビアニメもやっていたんですが、リアタイ視聴しました。ほぼメインストーリーをなぞっていて、ユイト側とカサネ側を一本にまとめつつ最後まで描き切ったうえでエンディングのその後もあったのでファンなら見て損はないです。

とくに一番補完が凄まじかったのはフブキですね。裏で色々と苦労したり手を回したりサポートしてくれていたのは察せられたものの、ゲームだとちょっと出てきていなくなって……みたいなのの繰り返しでしたからね。アニメはフブキのサポートがしっかり描かれてたので、そこはすごく良かったですね。あとアリスとかカレン+ルカの子供時代の話とかもちょいちょいあったので。あと「なんだあれ」って思ったイベントがアニメだと丸々なくなってて「あれやっぱゲームでも何かよく分からん扱いだったんだな……」と確信できたのもよかったです。


ネタバレありの叫びはこちら。

fusetter.com

以下、アニメ込みでネタバレを語ります。


結局のところゲームでよくわからんかった部分はアニメでもよく分からん!って感じ。何がどうしてカサネがランドール家に引き取られたのかとか、ユイトのレッドストリングスが発現した理由も分からん。まあ後者はもう少し出会いの描写が増えてたけど。

ただ、カレンがレッドストリングスがどうとか、時間跳躍についてもゲームよりだいぶ言及してたので丁寧に読み解けばその辺の辻褄は合いそうな予感がした。1回しか見てないのでその辺あやふや。ヤクモがレッドストリングス持ちってのはゲームでも名言しとけ、ひっくり返ったわ。あと、ゲームでユイトが「カレンは俺の先祖?!」みたいに言ってたけど、アニメだとしっかり否定されてたので笑った(乗っ取る前にもう子供がいた?模様)。

エンディング後のストーリーは、ゲームでは「あの場にいた人間だけはカレンのことを覚えている」ってなっていたけど、結局ユイトとカサネ以外は少しずつカレンのことを忘れてしまうってのが少し寂しくもあり、仕方ないのかなと思える部分もあり。ユイトが反動なのか、日常生活に支障があるとか半身不随ってレベルではなかったようだけど車椅子的な補助具を使うようになっていたので、まあそうかあ……と。

とりあえずストーリー知りたいって人がアニメ見る分にはいい出来栄えだったと思いますよ。