“神”ではなく傍観者に振り切ろうとした「大怪獣のあとしまつ」 着眼点は良かったのにどうしてこうなった

「大怪獣のあとしまつ」を見ました。コメディ要素と茶番要素としつこい恋愛要素(しつこくなければ別にあってもよかったと思うけどしつこい)をカットして50分くらいの尺にしたらちょうどいい塩梅になったんじゃないかな、と思います。

いちおう断っておくと、シンゴジラは見てないうえでの感想です。


ストーリーとしては人類を未曾有の危機に陥れた怪獣が突然死んだので、死体処理=あとしまつに奔走する人々を描く……というタイトルほぼそのまま。どちらかといえば、恐らく予算とかコスト面の理由が大きそうですけど「この怪獣がどこでどう暴れてどれくらい被害を被ったのか」とか「実際、人類は怪獣とどう戦ったのか」みたいな部分にはほぼ触れず、ひたすらその後の物語に振り切っていたのは、よかったポイントその1です。ずっと怪獣に振り回されてきたろくに力もない一般人たちが、突然舞台に上げられた感としてはいいと思いました。

「誰も描いていない」はちょっと言い過ぎかなと思いますが、まあ実際のところ「怪獣の死体」について大きくフォーカスした作品はそう多くはないと思います。ちょうど「怪獣8号」みたいな作品が出てきたところですけど、これも「主人公がかつて怪獣の死体処理に携わっていた」ことが戦い方などに寄与する面はあれど、主軸はバトルに移っているので扱うのが難しい題材なんだろうなとは思います。なんといっても絵として地味だし。

なので、やるなら特撮的なカタルシスやドンパチアクションではなく、政治込みのヒューマンドラマになるのは正しい方向性だと思います。これも方向性としてはよかったポイントその2です。ここで処理を押し付け合うのも権力あるあるというか、想像上のリアルらしいリアルで。数で割り切ったらそう多くはない犠牲にしても、あったら絶対責められるというのも生々しくてよかった。

怪獣の見た目とか、デザイン自体もよかったと思うんですよね。ほぼ横倒しで全景が分かりにくかったのが残念だったけど、質感とかしっかりしててファンタジーすぎず「生き物」として認識できる絶妙なラインだったと思います。どこかで模型かなんかが設置されてたらしいけど、そういうとこはもっときっちり押し出そうよ。


よくなかったところは、もう冒頭3行に集約されてるんですけど「コメディ要素」と「茶番要素」と「しつこい恋愛要素」です。

コメディと茶番は細かく挙げていったらキリがないんですけど、小学生が喜びそうな下ネタとかも結構(しつこく)入れてるし、恋愛要素もあるしファミリー層だったんだろうか。雑なパロディ(某政治家はともかく平成やらパシリムとか)はシンゴジラの2匹目のドジョウっぽいことをしたかったのか、そもそもどこをターゲットにしていたのかイマイチ分からない。そのついでに何も言わなくても見ると思われる特撮オタクか?いや、それにしたって本当にあの流れでパシリムネタ入れて喜ぶと本気で思ったんだろうか。

というか平成ネタで「あっこれは東映の悪いクセが出てそう」くらいの構えはできましたけど、予告でもっとコメディだと押し出しておけばそこまでギャップに苦しむこともなかったと思うんだが、自分がプロモーションを把握してなかっただけであらかじめコメディ映画だと宣伝していたんだろうか?

映画公開直前くらいの劇場予告はコメディっぽさもあったけど、その前の期待していたころのイメージが強くてこんなにコメディだと思わなかったってのが正直なところです。このギャップが結構つらかった。キノコとかもどう受け止めていいのか分からないし……。なんていうか、笑わせたいところと笑えるところ(別になかったけど)のポイントがとことん合わなかったとしか言いようがないです。

あとはもう、恋愛要素がしつこい。完全になくせとは言いませんけど、無駄に多い。恋愛部分は変にこじらせず、メイン2人がすれ違ってるのをもっとスマートにしてくれればよかったのに男の嫉妬とか不倫的なアレも混ざっててすげー面倒くさい。恋愛は主軸ではないと思ってるからそこの感想なので、泥沼の恋愛感情が主軸だと言われたら何も言えません。


最後のデウスエクスマキナについては、シャレのつもりなのかウィットに富んだジョークのつもりなのか、はたまたウルトラマンのような存在への皮肉なのかまったく分かりませんでした。一応、色々と伏線はあったので唐突だったとは言いませんが、実際に何が起こったのかはきちんと理解できるのに感情が「つまりどういうことだってばよ」ってなる自分としては珍しいパターンでしたね。感情の置き場がどこにもない。


「振り回されただけの人間の足掻く様」に振り切るならもっと人間がどうにかするオチがよかったと思うし、結局のところ神によって解決されるならシリアスに寄っていた方が何の力もない人間の無力さが際立って納得できたような気がします。どちらにもよらず、どっちでもないオチだったので自分としてはただただ唖然となってしまったというか。

色々と人を選ぶ映画だったと思う、それはそれとして映画ファン(に限ったことじゃなく個々の人間性とは思いますが)ってすぐ何かとデビルマンを引き合いに出すのかなり見ていて滑稽なのでやめたほうがいいんじゃないの。あと、叩いていいと思った途端にネタバレも何もあったもんじゃなく騒ぎだすのモラルがないなーって思います。

まあ、当分この手のテーマの作品は出てこないと思いますが、もっとシリアス路線で見てみたかったな……すごくいいテーマなのに残念だ。